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「平成13年度発行 ほほえみ35号」より
あの忌わしい出来事からもう20年近くがたってしまった。
僕は先輩の伊蔵さんと渋谷駅構内で露天販売をしていた。
商品は2人のオリジナル「手作りココナッツ」。
手芸用品で作った椰子の木のミニチュア版に、丸いビニール吸盤をつけたもの。
10センチの椰子の木に4枚の葉、2個の丸いヤシノミ。
机の上や車のボンネットに置くとすご〜くカワイイ。
1個500円のこの商品を20個程まとめてアクリル板に吸着させる。
露天とはいえども、このキュートな商品に通行人が足をとめ、時には買ってゆく。
若者も、主婦も、サラリーマンも、。
しかし時々警備員も来た。
こういう場合は早々に店を閉め退散する。
そして30分後に戻り、即開店できる。
便利な店鋪だ。
伊蔵さんは積極的に外商もした。
商品が吸着しているアクリル板ごとをひもで首に掛け、まるで駅弁売りのようなの移動販売である。
ハチ公広場やセンター街で大きな声を出し
『「手作りココナッツ」いかがですか〜!』。
周りの人は何ものかと逃げ出す人やら、大笑いする人。
ひややかに見る人もいた。
でも全般的に販売成果は順調だった。
ある時、東急ハンズの仕入れ担当の人が来た。
『これはウチにおいたら売れるヨ』と言う。
即、商談は成立し渋谷店等で扱うことになった。
『よしっ、一気に攻勢を』と次の手を打つ。
新商品「ジャンボ手作りココナッツ」の誕生である。
この商品は吸盤のかわりに本物のココナッツ(ヤシノミ)を置き台にした、高さ1メートル位のものである。
まずはココナッツをノコギリで縦に3分の1程カットする。
そして、手作りココナッツの幹が入るよう上部に穴をあける。
サンプルのできばえは室内インテリアとしてそれはそれは素晴らしい代物であった。
『これは間違いなく売れる!!』
早速、本物のココナッツをフィリピンから1,000ヶ輸入した。
一時的に先輩の阿久津さん宅に置いてもらう事にした。
狭い庭に威風堂々とココナッツの山がそびえ立つ。
商品は1個当たり3,000円位の利益を見込んだ。
1ヶ月で完売すれば300万の利益。
うひょう!!貧乏からおさらばできる。
その晩は先輩たちと前祝いとなった。
幸せの絶頂期・・・と同時にそれは悪夢の序章でもあった。
いざココナッツを取り出し商品製作にかかると、問題が発覚する。
ココナッツの固い殻の中のジュースが臭く、白い実が生のままいつまでも乾かないのである。
あえなく商品化出来ず宙に浮いたフィリピン産のココナッツは阿久津さんの庭で宝の山からゴミの山に変わった。
しばらくすると、なさけない事に腐り始めた。
虫がわき、アリが行列を作る。あげくの果て、近所から異臭がするとの苦情で警察官も駆けつけた。
それ以来、阿久津家の人々は近所から白い目で見られるようになり、本人はすっかり落込んだ。
その後、廃棄業者にお金を払い引取ってもらったと聞いた。
ココナッツと共に我々の運気は去ってしまったが、それまで順風満帆だった阿久津さんの人生をも狂わしてしまったようだ。
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